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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

パステルカラーの夏 (2015年予備)

パステルカラーの夏

おだやかなパステルカラ―の夏が来ぬ 雪深かりしカスケードにも
           (カスケードはカナダ西部の山脈の名前)
幾重にも重なり合へる山並みの遠きは藍の甕覗き色

山の端に接する空は穏やかなさくらねずみにほんのりとする

懐に氷河を抱く山々の或るは尖りて空に迫れり

明けてまだ白く残れる半月を護るがごとき群青の空

緯度五十、高度は二千六十の黒壁山(ブラックウオール)に風が冷たし

着ぶくれて山頂に立つすがしさを留守居の夫に電話で話す

七月のお花畑に低く咲く花の写メール夫に送りぬ

亜高山帯に咲きたるルピナスは五分の一のミニチュアサイズ

花びらをくるりと反らせ草の間にぽつと明るきクルマユリ咲く

雪解けの南斜面のそこここに氷河のユリ(グレーシャーリリー)の黄色が覗く

屈まりて花の写真を撮る友の背には無数の蚊がむらがれり

気がつけば一行四人それぞれにヤブ蚊の層をまとふがごとし

「Be Aware of Black Bears(黒熊に注意)」のサイン気になれど話題にはせず見ぬふりをして

見下ろしの湖に向け下山する 花を見ながら鳥を見ながら

道に添ふ疎林の中の倒木にすっと乗りたり薄黒きモノ

息潜め双眼鏡に確かめる雷鳥のオス さらにまたメス

雷鳥のドラミングの音初に聞く 十六分音符のやうなせわしさ 

タブレットにマイクをつけてsong(うた) sparrow(すずめ)の声の録音しばらく流す

録音の声に応へて鳴く鳥か 声聞こえ来る 「あ、枝にいる!」

スタッカートとトリルで鳴きてうたすずめ沼地の枝を飛び移りたり

灰色の小さき姿のうたすずめ 鋭き声で冴えざえとなく

樹と空を映して深き緑なり谿に拡がる大き湖

さざなみが夏の陽ざしに煌けり水面によろけ縞をつくりて

湖の浅瀬にたちて少年が父と二人で釣をしてをり

釣り糸を垂れて並べる父と子にときがしばしをとどまるごとし

いつの日かこの少年を支ふべし父との夏の釣りの思ひ出

砂利道を走り続けしひと日だとほこりだらけの車体が語る

昏れおそきバンクーバーに戻り来てはるかな遠き山々を見る

あの山のもつと向うの山にゐし今朝の自分が夢のごとしも


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